自治体コンプライアンス

自治体の首長のコロナワクチン先行接種

新型コロナウイルスのワクチンを巡り、優先接種の対象ではない地方自治体の首長(市長、町長、村長等)等が先行的に接種を受けていたことが問題視され、報道されています。

このことについて、賛否の意見が報道されています。この問題は、法律的に地方自治体の首長(都道府県の知事や市町村・特別区の長)等が優先接種の対象となっているかどうかという問題、そして、優先接種の対象となっていないとして、ワクチン接種のキャンセルが出た場合のキャンセル分のワクチンの扱いとして、地方自治体の首長(都道府県の知事や市町村・特別区の長)等に対する接種に用いることができるのかという問題を分けて検討しなければならないと考えられます。

1 法律的に地方自治体の首長(都道府県の知事や市町村・特別区の長)等はワクチンの優先接種の対象となっているか

「新型コロナウイルス感染症に係るワクチンの接種について」(令和3年2月9日 内閣官房 厚生労働省)
https://www.mhlw.go.jp/content/10601000/000739090.pdf

これを見ると、新型コロナウイルス感染症に係るワクチンの接種については、特定接種の枠組みによるものではない、と記載されています。

特定接種とは、新型インフルエンザ等対策特別措置法第28条に基づいて実施されるものです。そして、これは、「新型インフルエンザ等が発生した場合に、医療の提供又は国民生活・国民経済の安定に寄与する業務を行う事業者の従業員や、新型インフルエンザ等対策の実施に携わる公務員に対して行う予防接種」とされています。

地方自治体の首長(都道府県の知事や市町村・特別区の長)等は、この特定接種の対象範囲に含まれるものですが、新型コロナウイルスのワクチン接種に関しては、特定接種の枠組みにより実施されるものではありません。従って、法律上、地方自治体の首長等はワクチンの優先接種の対象となっているものではないようです。

2 ワクチン接種のキャンセルが出た場合のキャンセル分の扱いとして、地方自治体の首長(都道府県の知事や市町村・特別区の長)等に対する接種に用いることができるのかという問題

「“ワクチン余った場合も廃棄せず有効活用を” 河野規制改革相」(2021年4月13日)https://www3.nhk.or.jp/news/html/20210413/k10012971441000.html との報道がなされています。

「新型コロナウイルスワクチンの接種体制確保について自治体説明会④」(令和3年3月12日厚生労働省 健康局 健康課 予防接種室)(18頁最終行)
https://www.mhlw.go.jp/content/10906000/000752530.pdf との説明会資料があります。

このような国の見解を前提とすれば、ワクチン接種のキャンセルが出た場合のワクチンについて、地方自治体の首長(都道府県の知事や市町村・特別区の長)等に接種することは、法律的には、問題がないものと考えられます。

そうすると、地方自治体の判断として、首長(都道府県の知事や市町村・特別区の長)等が地方自治体における「危機管理を担う立場の責任者」であることに基づき、首長等がコロナに感染し、その地方自治体での意思決定が遅れることなどを防止するというリスクマネジメントの視点から(首長等がコロナウイルスに感染し、公務を行うことができない状況になれば、コロナ対策に関する意思決定が遅れ、ひいては、住民全体に関わるコロナ対策の実施が遅れることになりかねないことを避けなければならない)、首長等に余ったワクチンを先行接種することも、合理的な政策判断であると考えられます。

しかしながら、これについて、法律の遵守だけではなく、地方自治体の首長(都道府県の知事や市町村・特別区の長)としての倫理(政治的な倫理も含めて)・説明責任も含めた広い意味でのコンプライアンスを考えれば、法律違反をしていないからよい、と言い切ることは難しいと考えられます。

広い意味でのコンプライアンスの視点からすれば、ワクチン接種にキャンセルが出た場合、ワクチンを無駄にしないようにするために、また、首長等のリスクマネジメントのために、事前にルールを策定し、そのルールを開示しておき、それに従って、首長等へのワクチン接種をすることが望ましいものです。

今回、地方自治体の一部の首長等のワクチンの先行接種が報道されましたが、これを契機として、地方自治体の行政上のリスクマネジメントの視点から、キャンセルが出た場合の地方自治体の首長等のトップへのワクチン接種のルールにつき、各地方自治体において早急にルールを策定して、公表することが望まれます。

「ワクチン先駆け接種の首長に『説明責任』 河野行革相」(朝日新聞)(2021年5月14日 )https://www.asahi.com/articles/ASP5G4DKSP5GULFA00Z.html
との報道がなされていますので、地方自治体においては、首長としては、早急に、ルールの策定・公表という説明責任を果たすことが望まれます。

  • 選挙ドットコムに掲載した記事です(2021年5月15日)

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