自治体コンプライアンス

千葉県市川市 市長室シャワー設置問題

1 報道された事実

2021年6月15日読売新聞で、東京都世田谷区議会が、区議会議員から区職員へのハラスメントを防止する条例案をまとめたこと、そして、それが可決される見通しであることが報道されました。

この報道で指摘されていますが、地方自治体議員が職員に対してハラスメントを行った事件がいくつも発生しています。今回の報道は、議員から職員に対するハラスメントの防止対策のための条例等の制定の必要性、また、議員に対するハラスメント防止のためのコンプライアンス意識の醸成の必要性があることを認識させる報道です。

議員によるハラスメントについて、従前から問題があることは意識されてきているようですが、自治体議員によるハラスメントの防止のための条例を制定している例は、ほとんどないようです(地方自治研究機構「ハラスメントに関する条例」http://www.rilg.or.jp/htdocs/img/reiki/066_Harassment.htm )。ただ、政治倫理条例において議員によるハラスメントの防止について規定している例はいくつかあるようです(地方自治研究機構「政治倫理条例」 http://www.rilg.or.jp/htdocs/img/reiki/064_Political_ethics.htm )。

東京都内では、狛江市で、2018年に、当時の市長がセクハラ問題で辞職した後に、条例が制定されています(「狛江市職員のハラスメントの防止等に関する条例」 http://www.rilg.or.jp/htdocs/img/reiki/PDF/%EF%BC%96%EF%BC%96/%E7%8B%9B%E6%B1%9F%E5%B8%82%E6%9D%A1%E4%BE%8B.pdf )。ただ、この条例は市長のセクハラ問題を背景に制定されたためと思われますが、この条例では議員によるハラスメントの問題は二次的に扱われています。

自治体議員から職員に対するハラスメントの防止対策は、多くの自治体で検討しなければいけない問題であると思います。この問題について、検討を続けていきたいと思います。

2 新庁舎建設に伴う余剰金(執行差金)により市長室内にシャワー室が設置されたことの問題

法律・条例上の問題として、「市川市議会の議決に付すべき契約及び財産の取得又は処分に関する条例」では、「議会の議決に付さなければならない契約は、予定価格1億8000万円以上の工事又は製造の請負」と規定されています(第2条)
(https://ops-jg.d1-law.com/opensearch/SrJbF01/init?jctcd=8A80073A9D&houcd=H339901010027&no=23&totalCount=23&fromJsp=SrMj)。

この点からすると、市川市長の行為は、条例の規律には違反をしていないことになります。ただ、条例に直接違反していないとして、シャワー室設置について、市民・市議会に全く説明なしに、シャワー室設置という追加工事をしたことが、市長としてのコンプライアンス違反の問題が生じないのか、ということが問題となります。

これは、市長のコンプライアンス問題として、法令(条例)に違反をしていない以上、コンプライアンス違反はない、と言い切れるかです。

コンプライアンスは、狭義には、法令(条例)に違反しないこと、と定義することができますが、現在、コンプライアンスについて、一般には、広義にとらえるべきものとなっています。単なる法令(条例)に違反しないこと、そして、社会規範・社会倫理(住民・社会からの要請・期待)に違反しないことも含めて考えるべきものとされています。また、議員や長等については、政治倫理の問題も生じるものです。

市川市においては、政治倫理条例は制定されていないようですが、市長において、社会規範・社会倫理(住民・社会からの要請・期待に応えるべきこと)に違反しないように行動すべきであり、政治家として、問題視される事項については、説明責任を負っていると考えられます。この視点からすると、市川市長の行為は、広い意味でのコンプライアンス違反になるものと考えられます。

2 市議会による決議(市川市長室に設置されたシャワー室を撤去し、原状回復を求める決議)に市長が従わないことの問題

まず、市議会による決議には、2種類あります。すなわち、(ⅰ)法律などで定められていて法的効力があるもの(首長に対する不信任決議[地方自治法178条]、特別委員会の設置に関する決議[地方自治法109条4項]など)と、(ⅱ)法的効力がない事実上のものがあります。この後者は、議会が、政治的効果を狙う、また、議会の意思を対外的に表明することが必要であるなどの理由で行うものとなります。

今回、市川市議会でなされた決議は、後者の決議で、法的効力がない事実上のものです。したがって、市川市長が、この決議に従わないという判断をしたとしても、違法ではありません。しかしながら、政治倫理までを含めた広い意味でのコンプライアンスの問題を考えれば、市川市長のシャワー室を「撤去しない」との発言・行為は、広い意味でのコンプライアンス違反であるというべきです。

  • 選挙ドットコムに掲載した記事です(2021年6月16日)

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